【コラム】ウランバートルの夜を熱くするThe MongolZの快進撃。910の壮絶な物語とモンゴルCS2の止められない勢いの原点とは?

2025年6月23日月曜日

アジアCS コラム

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カウンターストライクの競技シーンでは、ヨーロッパや北米のチームが注目を集めることが多い中、最近ではThe MongolZを筆頭にモンゴルのチームが快進撃を見せています。今回は、モンゴルのCS事情や、The MongolZのAWPerである910のストーリーを紹介します。

The MongolZの快進撃:モンゴルCS2の旗手

モンゴルのCS2シーンを語る上で欠かせないのが、プロチーム「The MongolZ」の存在です。2024年6月、彼らはアラブ首長国連邦で開催されたSティア大会『YaLLa Compass 2024』で優勝し、アジアチームとして14年ぶりにS-Tierを獲得しました。


これは2010年の韓国チーム「WeMade FOX」以来の快挙であり、モンゴルeスポーツの歴史に刻まれる瞬間となりました。

さらに、BLAST.tv Austin Major 2025では、The MongolZは決勝に進出し、2位という輝かしい成績を収めました。

これはアジアおよびモンゴル初のメジャー大会ファイナリストとして、若手主体のチームが世界に衝撃を与えた瞬間でした。

The MongolZの成功としては、単なる競技成績にとどまりません。

2025年6月23日未明、モンゴルの首都ウランバートルでは、深夜4時にもかかわらず多くのファンがパブリックビューイングに集まり、The MongolZの勇姿を見守りました。これは、サッカーやバスケットボールのような伝統スポーツに匹敵する熱気だと感じます。

モンゴルにおけるCS2

Austin Majorには、モンゴルのチームはThe MongolZとChinggis Warriorsが出場しました。プレイオフ進出をかけたステージでは、国民の2%が視聴していたこともあるほどCS2が普及しています。

そんなCS2が人気であるモンゴルの背景には、いくつかの要因が絡み合っていると思われます。

しっかりとした土壌

まず、モンゴルは人口約340万人の国でありながら、インターネット普及率が80%以上と高く、若年層を中心にデジタル文化が浸透しているという点です。加えてモンゴル政府は、通信・情報技術産業の振興に力を入れており、「デジタル国家」構築を目指しています。

そして、CS2は基本プレイ無料であり、比較的低スペックのPCでも動作するため、経済的なハードルが低いことも普及を後押ししています。

CS1.6をプレイするモンゴル系仏教徒


文化と国家が育てる

モンゴルの若者は、伝統的な遊牧文化と現代のグローバル文化が交錯する環境で育ち、競争心やチームワークを重視する価値観を持っています。

CS2のような5対5の戦術的なゲームプレイは、こうした文化的特性と共鳴し、チームスポーツとしての魅力を発揮しています。

さらに、eスポーツに関して、国が支援しているという点も大きいでしょう。The MongolZは2025年2月に国指定の「ナショナルチーム」に指名されました。

これにより、スムーズなビザの取得や、給与の保障など、手厚いサポートを受けています。また、国内メディアやeスポーツ関連のコミュニティは、The MongolZの活躍を「モンゴルの誇り」として大きく報じ、若者だけでなく幅広い層にCS2の存在感を広げていることも影響していると思います。

この点は、IEM Rio Majorでビザ取得が困難だったBad News Eaglesを、文化・スポーツ大臣が救済した件と通ずるものがあります。

参考記事: BNEのIEM Rio Majorへのビザ取得に政治家が動く

910の過酷な旅

The MongolZはAustin Majorで決勝戦の前に、910のエピソードを公式Xで投稿しました。

[和訳]

「910はモンゴルの首都ウランバートルから遠く離れたダルハンという町で育ちました。Counter-Strike(当時はCS:GO)のLAN大会は主に首都で開催され、少額の賞金を目指して競い合う場でした。

910にとって、これらのトーナメントに参加するには、6時間以上もの列車移動が必要でした。そして彼には往復の旅費を賄う余裕もなく、片道の切符だけで挑むことが常でした。

負ければ、食事や宿泊、帰宅の手段を失うリスクを背負いながら、彼は"勝つこと"が生き残るための必須条件である過酷な環境で戦いました。 」

この厳しい環境が、910を強靭なプレイヤーに育て上げました。彼にとって、勝利へのプレッシャーは単なるゲームの結果ではなく、生きるための闘いでした。

そんな彼の努力とスキルは、やがてThe MongolZというチームの目に留まり、歴史的な成功への第一歩となりました。

Dota 2からCS:GOへ

910のゲームキャリアは、Counter-Strikeだけに留まりません。彼は元々、Dota 2のプロプレイヤーとしてThe International(TI)を目指していました。

しかし、モンゴルでCS:GOの人気が高まるにつれ、彼はCS:GOに転向。すぐにトップAWPerとしての地位を確立しました。

モンゴルCSからアジアCSの発展へ

今回のThe MongolZの歴史的な成功は、モンゴルがeスポーツの新興勢力として世界に名を刻む第一歩ではないでしょうか。国民の熱狂的な支持若者の情熱、そしてデジタル文化の土壌が揃うモンゴルは、今後さらにCS2シーンを牽引し、アジアを代表するeスポーツ大国となる可能性を秘めていると感じます。

日本を含むアジアのeスポーツファンにとって、モンゴルの活躍は刺激的なニュースです。CS2を通じて、国境を越えた競技の魅力と、若者の夢が交錯するモンゴルの物語は、アジア全体のCSシーンの新たな地平を開くかもしれません。


首都ウランバートルの観覧車にライトアップされたThe MongolZ。このような光景が日本でも見ることが出来る日を願っています。

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